穢れた毛抜き

夫が蓄膿やそれに関わるもろもろの手術をしてもうすぐ二か月。手術が終われば私には快適な睡眠生活が待っている、はずだった。そのためには私の給料一か月分ほどもかかる高額な手術費も安いもんだ、と思おうと努力もした。

 

夫曰く、鼻の通りはものすごくよくなり鼻呼吸の快適さが最高であると同時に、蓄膿による頭の重い感じもしなくなったとのことである。しかしそれらは全て夫の主観によるものであり、私には何も関係のないところである。

 

ある意味予想通りではあったが、未だにいびきをかきよるので、私の快適な睡眠は奪われたままだし、なんなら給料一か月分まで失った。夫がハッピーなら私もハッピーなわけがあるまい。奪われたものは取り戻したいし、失ったものには戻ってきて欲しい。

 

そうこうしていると、ある日夫が鼻くそがひっかかってとれないと騒ぎだした。夫を見やると、鼻の穴をこれでもかと膨らませ、私のスマホの強烈なライトで中を照らし、拡大鏡をのぞき込んでいた。

 

鼻をかんでも、鼻ドリル(ティッシュをドリル風にして鼻に突っ込み、ぐるりとまわすとものすごくとれるというもの。母に伝授された私が夫に伝授したのだが、母曰く、祖母のゴミ箱にも、伯父のゴミ箱にも鼻ドリルがあるのを見たらしいので、私の実家に言い伝えられているものらしい)をしても、綿棒を突っ込んでみても取れないらしい。

 

不快感がMAXに達した夫は、とうとう私の毛抜きを鼻につっこんでブツをつかみとる作戦に出た。ああ、私の毛抜き。私からこれ以上何を奪う気でいるのだ。快適な睡眠、一か月分の給料、そして毛抜き。あとスマホも。

 

何分かの格闘の末、ようやく巨大な鼻くそが取れ私に見せびらかし、ご満悦の夫。その手には穢れた毛抜きが。すぐさま流水で洗い流し、アルコールスプレーで複数回消毒させたが、本当は煮沸消毒までしてほしかった。明日からその毛抜きのことを「鼻くそまみれになった毛抜き」として扱わなくてはならないことが悲しくて仕方がない。

 

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毛抜き事件のせいで食欲がなくなった。