推しとの日々

一日目。彼に出会う。はじめは何とも思わなかった。顔もタイプじゃないし。でもしだいに彼歌声、奏でるピアノに魅了される。もう彼のいない生活は考えられないほどに虜になる。例えるならば、チュールを与えられた猫のよう。

 

二日目。仕事に行く。彼の歌声が聞きたくてたまらない。ピアノを弾く指をじっくり見たくてたまらない。何度仕事中にYouTubeを立ち上げようとしたことか。何度ニヤけた顔をさらしたことか。家に帰る道すがらは、もうしんぼうたまらんかったので、今月のデータ使用料を使い切ってもいい覚悟でYouTubeを開く。家に着いても何もせずただ彼と過ごす。晩ご飯を食べ忘れる。

 

三日目。仕事中、彼の情報をいろいろ探る。彼の活動内容や私生活について学ぶ。そして彼が20代前半であることを知る。私が二十歳の時に彼は小学生だったという事実に震えが止まらなくなる。私はどうやら犯罪者になってしまうのかもしれない。それにしても20代前半で醸し出せるあの色気は一体何なのか、仕事そっちのけで研究に励む。

 

四日目。彼のこと以外には何も考えずに一日を過ごす。そうしているうちに、ピアノになって彼に弾かれたいという妄想を抱くようになる。頭が完全にイかれる前に、友人に彼のすばらしさをLINEで送る。その結果、彼のピアノになりたい人間をもう一人作り上げることに成功。

 

五日目。別の友人にも彼のことを紹介。彼と私の年齢差について打ち明け、果たして私は犯罪者なのかどうか相談に乗ってもらう。すると、「私の不倫相手もそれくらい年下だから大丈夫だよ」という、全然大丈夫じゃない脂っこい話を聞かされる。私が脳内不倫妄想劇を繰り広げている間に、現実で不倫劇を繰り広げている人間がいることに大変驚く。

 

六日目。夫にとうとう打ち明ける。オリジナリティがない、という夫の感想にゲボ出そう。ジェラシーか。夫は理解していない、彼の魅力はオリジナリティうんぬんではないということを。見るべきところは、彼のダダ漏れの色気であり、ミステリアスな視線であり、セクシャルな指使いであるのだ。ああ、ピアノになりたい・・・。そして私を弄んでほしい。

 

人生の充実感を、今私は味わっています・・・!