絶対が絶対ではなくなる時

「絶対やるから」とあなたが信頼している人に言われたら、あなたはどうしますか。大抵の人はその言葉を信じるのではないだろうか。その大抵の人同様、私は信じた。そう、夫を。

 

うちのマンションには何度注意しても共用部分で犬を歩かせるキ✖ガイばばあ住んでいるのだが、私が取り憑かれたようにそのばばあの行動に目くじらを立てこのままじゃ私の方がキチ✖イなるのを恐れて「俺が歩かせてるところ見たら絶対注意したるから」と夫は何年も言ってきたのだ。だが、ばばあを見たくない私はばばあをしょっちゅう見かけ、ばばあに出会いたい夫は出会うことなく数年が過ぎた。

 

そして数年の時を経て、ばばあが犬を歩かせているところに見事夫と私が出くわし、注意するチャンスが訪れた時、夫はどうしたか。注意したくないという気持ちと私との約束を守らなければと思う気持ちに板挟みになって、しどろもどろになった。そんな夫を見て代わりに注意しようとした私を、それでも夫は止めたのだ「俺が注意するからいい」と。

 

だが、いざその時になると「い、言わなあかんか・・・?」と夫はみるみる内に怖気づいた小者に成り下がり、そうしてる間にばばあは犬を抱かずに歩かせたままエレベータに乗って私たちの前から姿を消したのである。何年も待って訪れたせっかくのチャンスはあっさりと過ぎ去った。

 

その瞬間私の中では、「絶対とは何か、『何が何でも』『必ず』という意味ではないのか」という疑問が渦巻き、そして私の中で夫の言う「絶対」は絶対ではなくなった。夫が言う「次こそは絶対やるから」も「絶対にお前を幸せにするから」も「親の介護絶対しなくてもいいようにするから」も、もはや何も意味を持たず、全て嘘に聞こえてきて、むしろ笑えてくる。

 

いつもは、ばばあを見かけるとその後数週間はそのことで頭がいっぱいになって暗い気持ちになっていたが、今回は数年待って訪れた絶好のチャンスを逃したことと、夫への信頼が崩れ去ったことも相まって、最低一ヶ月は暗い気持ちで過ごすことになるだろう。

 

夫はというと後悔から「俺は馬鹿や、時を戻してやり直したい・・・」と言いながら、珍しく心の底からの謝罪を繰り返しているし、「やらないで後悔するよりやって後悔する方がマシ」を体現して暗い気持ちになっているよう。と思ったけど、さっきはいびきをかきながら昼寝をしていた。私の気分が晴れるまでとことん苦しめてやろうと思う。

  

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ロールケーキ買ってくれても全然気分晴れませんから