存在していない虫

昨日の朝のことである。顔を洗って顔をあげると目の前を横切ったのはハエほどの大きさの虫。とっさに手を叩いて虫を殺そうとしたおのれの反射神経になかなかびっくりする。だって蚊とか小さい虫じゃなくてハエほどの大きさの虫。殺せたとしてもちょっと嫌だろう。

 

幸か不幸か、寝起きでそこまで素早く動けなかった私のせい、もしくは虫の動きが素早かったせいで殺すことができなかった。私には虫と共存するという選択肢はゼロ、ということは殺すという一択になる。だが、一瞬のことで見失ってしまった。

 

それにしてもどこからやって来たのか。我が家はマンションの割と高めの階にあり、前日は一度しか外出せず、窓の開閉なども頻繁にしていない。どこかからわいたのか。窓からの侵入も考えたが、私はちょっとというかかなり変な人間なので、一日に何度も、寝る前は最低三回は、窓がちゃんとしまっているのかを確認しないと発狂するので、その可能性は低いと思われる。

 

「ハエくらいのでかさの虫がいた!」と騒ぐと、夫は心の中で思ったのだそうだ。「モモちゃんがとうとう幻覚を見だした」と。でも思っただけで「見つけたら殺してあげるからな」と言ってくれたのである。

 

ところが、その後虫は一日中姿を現さなかった。私とて一日中ずっと虫のことを考えていたわけではないが、でも時々あの虫はどこへ行ったのか、と頭の片隅で虫のことを考えていた。

 

虫を駆除しないまま寝るのは気持ちが悪い、と寝る前に部屋の中を点検していたら、隠れていた虫がとうとう姿を現した。すぐさま「虫だ!!」と叫ぶと、またしても見ていなかった夫は私を心配そうに見やり今度は「虫なんかいてないで…一日中見なかった…幻覚…?」と言ったのである。

 

だから虫は幻覚ではない。完全に存在している。なぜ私を信じないか、と問いただすと「モモちゃんが嘘を言っているとは思ってない。存在していない虫がモモちゃんには見えてるんだと思う」とまで言い出すので、妻のことをビョーキ扱いするのはまじでヤメロ。

 

もちろんその後虫が再度出没して、夫もようやくその姿を見る事ができ、私が幻覚を見ておらず正常であることが証明されたことは言うまでもない。もう少しで病院送りになるところだった。虫を抹殺して安心してぐっすり寝た。

 

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